バイクへの“特別な想い”って何だ?

埼玉県八潮市のとある住宅街にバイクショップ「ボビー」はある。夜に訪れると店内はまるで、シャレたカウンターバーのよう。でも供されるのはアルコールではなく、ミントコンディションの絶版車だ。
代表の鈴木正徳さんはゼロフィニッシュをこう評した。

ボビーにはホームページがない

もしかしたら、ちょっと変わったバイクショップかもしれない──。取材する前には少しだけ身構えていた。世の中のみんながみんな、ネットやスマホを四六時中注視する令和の今にあって『ボビー』にはショップのホームページがない。そのことを知らずに「ホームページが探せないんですけど」と電話口で聞いてしまった自分が恥ずかしいが、そんなショップもまたはじめてなので許してほしい。

それでも店長の鈴木正徳さんは、とくに問題ありませんと言う。強弁なのか? めんどくさいだけじゃないのか? 意地の悪い筆者は最初そう思ったが、どうやらそれはだいぶ見当違いのようだった。

「信頼できるお客さんが、信頼できるお客さんを連れてきてくれる。とてもありがたい話です。この単純な仕組みでボビーは回っているんです。まあ、仕事が減ってしまったらホームページ、作るかもしれませんが(笑)」

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オーナーさんの気持ち

鈴木さんのもとに集まってくる旧車はホンダのCB750FourやカワサキWシリーズ、オールドハーレーなどじつに幅広い。ときには「CB750Fに強いショップですよね」と言われてしまうことも多いらしが、自身はむしろ“得意”や“専門”を決め込まないスタンスだ。「これなら任せて」的な看板車種をあえて掲げず、メジャー/マイナーにもこだわらず、それぞれのオーナーさんの気持ちを優先しながら整備や修理を引き受ける。

気持ち。それはどんなキモチか。

「大好きなこのバイクに20年以上乗り続けています。一生モノですが、最近トラブル続きで困っています」

「このマイナー車をまとも走らせたいんだけど、どのショップでも断られちゃって……」

「ずっと乗っているけど、いやずっと乗っているからなのか。愛車の調子が本調子なのかが分からなくなってしまった」

「補修パーツがまったく探せない。もう手放すしかないのかなあ」

このようなカンジの、大半ややこしいオーダーを鈴木さんは快く受け止める。

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ボランディアではないが

イージーじゃない、少々込み入った整備のニーズがあるのも知っているが、それらがあまり割に合わないことくらいは筆者でも知っている。手間も技術も時間もかかるが、悲しいかな、お金にはなりにくい。ビジネスとして断るというショップの判断は誰も責められない。

鈴木さんは、どうしてそんな茨の道を行くのか。

「もちろんボランティアではないので、折り合いがつく予算の中で作業は進めます。じゃないとお店が傾いてしまいますからね(笑)。でもお客さんの気持ちも痛いくらい分かる。そこはなんとかしてあげたい。そう考えるように至ったのには、僕のもともとの気質があるのかもしれません」

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RX-7は特別だった

「1974年生まれの自分も、当時の熱かったバイクブームにもれず……と言いたいところですが、じつはそれほどバイクに興味はありませんでした。どちらかというと、クルマ。スーパーカーブームもあってカウンタックLP400が好きでした。タミヤのブルーのLP400、あのプラモは熱心に作りましたねえ(笑)。

中学生のときにはマツダのサバンナRX-7、いわゆる“FC”にゾッコンでした。近所のディーラーを5歳年上の兄貴と訪ね、緊張しながらカタログをもらってきましたよ。自宅でそれを眺めては、めちゃくちゃ鼻息荒かったです。いつかコレに乗ってやる! って。

中学校を卒業して高校へ。でも16歳になってすぐに、高校をやめてしまったんです。もともとバイクはダメだった高校だったので、これでバイクには乗れるな、と思った僕はわりとすぐに中免を取りました。バイクにそれほど興味がなかったと言いつつ、『友だちもみんなバイクに乗ってるし』なんて理由で、16歳での中免取得。いま思えば、それが当時の雰囲気だったんでしょうかね」

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ホンダのハイスペックマシン

動き出した鈴木さんの勢いは止まらない。さっそくショップに出向き、するりとバイクを購入。フルタイムで頑張っていたアルバイトで稼いだお金をぜんぶつぎ込んで買ったのはホンダVFR400R、しかも新車だった。

「当時はバブルだったので、16歳の僕にもそこそこの給料が支払われるわけです。これはイケるぞという前のめりな気持ちのままにローンを組んで、当時400ccクラス最速と言われた高性能マシンを手に入れました。

不思議なもので「クラス最速、最強」とか言われても、僕はこのバイクしか知らない。原付バイクをまったく通ってこなかったので。だから、VFRの速さに関してもぜんぜんピンときていなかった。こんなもの、とさえ思っていました。ワインディングを速く走るためには、なるべくバンク角を稼ぐしかない……バイクを斜めにさえすれば速く走り抜けることができる。そんなふうに思い込んでいました」

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ついにやってきた!

「その後、とくに強いこだわりもないままにスズキGSX250Sカタナ、カワサキGPZ400R、いわゆるハチハチのホンダNSR250R、そしてCBR250Rと乗り継ぎます。NSRは軽くて速くていいな! と思ったんですが、当時付き合っていたカノジョにノーと言われて乗り換えました。まあ、そりゃそうですよね(笑)。

そうこうしているうちに18歳になったので、僕はクルマの免許を取りに行きます。取得後さっそく兄に借りたパジェロに乗るのですが、どうにもしっくりこない。

しばらく経ったあと、憧れだったRX-7、クルマ好きがFC3Sと呼ぶロータリーエンジン搭載の中古スポーツカーと出会ってしまい、思わず掴んでしまったんです。とうとう運が巡ってきた、オレのところに天使がやってきた! って」

手に入れた19歳のときから30年弱、そのRX-7を鈴木さんはいまでも大切に所有している。一方、バイク趣味はそこで終わらなかった。

埼玉県八潮市|旧車|クラシックバイク|カスタムバイク|ボビー|cb750F

あのCB750Fを購入

「乗りたかったクルマを、自分のものにすることができた。そこで僕のクルマへの興味はいったん満たされてしまったのかもしれません。RX-7以外にそれほど関心がなかったことは、30年後の今のほうがより強く感じます。僕はRX-7オンリーだったんだな、クルマが好きなのではなくRX-7が好きだったんだな、と。

バイクへの感情はその時点で、また別なものに変化していました。クルマを触りたいっていう気持ちはなかったのですが、逆にバイクにはどんどんのめり込んでいきました。

CBR250Rを買ったころに限定解除をしていたので、次に買ったのはとうとう大型バイク。当時でさえそこそこの旧車だったホンダCB750Fです。

その存在はマンガですでに知っていたので、カッコいいなあ、とは思っていました。兄貴に背中を押されたこともあって二十歳のときに購入、そして実際に乗ってみたら……めちゃくちゃ楽しかった! これぞ単車、ってカンジ。一発で惚れてしまいました」

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無視なんてできない

1982年式、1984年登録3万キロ走行の“F”を鈴木さんは42万円で手に入れた。そのFもまたRX-7同様に、いまでも大切に所有している。

鈴木さんという人物の、愛車へのスタンスを説明するのにRX-7とCB750Fのことを引き合いに出したが、つまり鈴木さんは「コイツだ!」というものに出会ったら最後、ずっと愛し続けることができる気質の持ち主なのである。そして、そのことを同じように実践するライダーの気持ちが無視できない。放っておけない。

「二十歳のころの自分と四十も半ばを過ぎた今の自分。変わったものは正直、それほどありません。整備士になりたくて21歳のときに高校に通い直し、25歳のときに専門学校に入って27歳で整備士免許を取得。いくつかのショップで下積みの経験もしました。旧車系ショップに3年半ほど在籍したのち2008年2月、34歳のときに自分のショップ『ボビー』をオープンさせました」

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メカニックはカッコいい

「みんながバイクに夢中になっていたあのころ、メカをいじれる友人のもとにはたくさんの仲間が集まっていました。ここを調整してほしい、あそこを直してほしいという感じで寄ってくる。得意がひとつあると、そこに人は集まるんだな。カッコいいな。当時はそんなふうに感じて、頼れるメカニックという存在に憧れました」

メカニックはカッコいい。だから憧れたし、なりたくなった。鈴木さんはそのことを隠さない。

「頼れるメカニックを志した僕が、やっと手に入れた自分のショップです。当然苦労もあります。でも結果的には、いいお客さんがいいお客さんを紹介してくれる。その連鎖によってボビーは支えられているんです。そのことは、とても大きなモチベーションになります」

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してあげたい精神

「ホームページを作ることで不特定多数のお客さんを誘いたいというのは、ビジネスとして当然だと思います。そのほうが商業的な広がりを持たせやすい。ただ僕は、その方法を採らなかったというだけです。数的な広がりよりも、個々の情熱に対してしっかりとていねいに向き合っていきたい。

根本にあるのは、『自分がこんなことしてもらったらきっと嬉しいだろうな。だから相手にも、お客さんにもしてあげたいな』というシンプルなサービス精神。塗装やブラストなども、なるべく外注に頼らず自分で行うことでお客さんの負担も減らせればと思っています。

何もかもぜんぶ自分の手で、とはいきませんが、なるべくお客さんの立場で作業を進めていきたい。ボビーに預けたらこんなにキレイになるんだ、ここまで調子良くなるんだ……そんなふうに思ってお店を後にしれくれれば最高ですね」

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ゼロフィニッシュは愛情なのか

車体の外装をキレイにするために、鈴木さんにはふだんから気にかけていることがあるという。

「僕はピカピカ至上主義者ではまったくありませんが、シュアラスター・ゼロフィニッシュはバイクへの愛情がボディに投影できる優秀なケミカル剤だと思います。

まずワックスや艶出し剤特有のベタベタ感がまったくないのがとても使いやすいし、拭き取りの手間も最小限で済ませることができます。だから使うにあたって『時間はかけたくないけれど……』というためらいが一切不要なんです。

試しにカタナの銀色のタンクで効果を試してみたんですが、汚れを落としてくれた上できっちりと水玉が出来ましたね。もちろん塗装面の艶もそれまで以上に美しくなった。新車からある程度時間が経過したバイクでも、艶を復活させることは可能だと感じました」

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ゼロフィニッシュには「何か」がある

「手間は惜しまないと言いつつ、僕だってやっぱり時間は省きたい。限りある日々の制約の中でスムーズに作業を進めたいときに、ゼロフィニッシュが演出してくれるディープで美しい艶は、作業後の満足感をきっとアップさせてくれるでしょう。

何よりこのゼロフィニッシュが素晴らしいのは、『愛車をキレイにしたい』というオーナーさんの気持ちに誠実に向き合っていること。僕にはそう感じます。効率よりも大切にする「何か」が、メカニックとしての僕のモチベーションですから。

美観にしても、機関のコンディションにしても、目指すゴールをどこに設定すればいいのかを、お客さんといっしょに考えることはショップの大切な役目だと僕は思います。最終的に、自分の愛車だけの価値を見つけることができたライダーはきっと幸せです」

八潮の住宅街の一角、ちょっと探しにくいショップ『ボビー』。バイクを愛しているライダーの、特別な想いを今日も受け止めている。

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photo:高柳健 text:宮崎正行

記事で紹介されたアイテム

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ゼロフィニッシュ
マイクロファイバークロス

取材協力:Bobby

1960年代から80年代にかけての内外旧車、その中でもとくにCBやZ、Wなどを中心に丁寧なレストレーションと、ミントコンディションを維持するためのメンテナンスを行うプロショップ。預けられるバイクの大半は、良好な関係を築いている長年のお客さんと、そのお客さんからの紹介というカタチで持ち込まれる個体がほとんどだ。
埼玉県八潮市緑町1-20-15 ▲048-947-7109
営業時間14:00〜21:00 定休日/金曜・土曜

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