
「EXECTIVE’S Choice――ゼロフィニッシュだけあればいい!」Vol.11
BULL DOCK代表・和久井維彦さん
東北自動車道を佐野藤岡ICで降りて、県道67号を600畳敷きの藤棚を持つ大藤や長さ60mにも及ぶ白藤のトンネルで有名な足利フラワーパーク方面へ進み、フラワーパーク前を過ぎて2分ほどすると赤と黄色の大きな看板が左手に見えてくる。
続いて、いまやカワサキ・Zカスタムの聖地となっているBULL DOCKの大きな社屋が道路沿いに現れる。
広い敷地内には事務所のほか、Zカスタムを作り上げる作業スペースである2つの大きな建屋があり、さらに入口左手にも小さな建屋がある。いちカスタムショップというには、あまりに広いスペースが広がっている。
車両代込みで、最近は1台あたりの単価が600万円は下らないという珠玉のZカスタムはこの栃木県・足利の広大なファクトリーで日々生まれているのである。
カスタムと言ってもBULL DOCK代表の和久井さんが手がけるZはカスタムの枠に止まらない。ベース車両から使用するのはエンジン(それも一部分)とフレーム、そしてオリジナルの外観を維持するためのタンク、メーターなどのみ。他のパーツは、マシン製作を依頼したオーナーの要望に応えて和久井さんが厳選したさまざまなものが組み合わされて1台のオリジナル・コンプリートマシンが出来上がっていく。
GT-M(ジェニュイン・チューニング・マシン)という、BULL DOCKが1台のマシンを作り上げていく基本メニューにオーナーの要望や好みが加わって、40年以上前に登場したカワサキ・Zが現代のバイクと同等の性能を持ったバイクに生まれ変わっていくのである。
性能は言うまでもなく、外観、見た目の美しさにも徹底的にこだわりながらマシンを製作していく和久井さんは、バイクを美しく保つケミカルにも関心が高い。
「お客さまに納車する前には、当然、バイクをピカピカに磨き上げます」
その際に、ぜひゼロフィニッシュを使ってみてほしいというこちらの要望を聞いてくださった和久井さん。さて、どんなコメントがお聞きできるのだろうか。

足利フラワーパーク前を過ぎて数分で目に入ってくる大きな看板がBULL DOCKの社屋の目印。とても目立つ看板だ。
目次
21歳のときに輸入車販売のショップを任された
1973年、栃木県足利市に生まれた和久井さん。当時は、栃木県も3ナイ運動まっただなかだったが、「自分は免許を取るほうの人種」だったという彼は、躊躇なく16歳で免許を取得。
「中学校のとき、先生がカワサキのGPz1100を買ってくるような環境でしたね」
和久井さんの最初の愛車もカワサキかと思いきや、ヤマハのSR400だった。
「安いし、空冷エンジンで見た目もシュッとしていたし。そのあと、大型バイクに乗りたくて限定解除してスズキのカタナを買ってから、貯金してカワサキのZ750FXを買いました」
和久井さんが18歳のときのことで、そのバイクを自分でいじって筑波サーキットで行われていた「テイスト・オブ・フリーランス(現在は、テイスト・オブ・ツクバに改称)というイベントレースにも出場した。
高校に行きながら、地元のバイクショップでアルバイトをしていた和久井さんは、その頃からカスタムの世界に魅かれていく。そんなとき、学校の先輩がやっていた自動車解体業の会社が、オーストラリアやイギリスからBSAやマチレスといった古い英国車や、カワサキ・Z1、H2、Z1000MKⅡなどといった国産車などを日本に輸入して販売するビジネスを始めた。
そして、和久井さんが21歳のとき、その輸入車販売店「ゴールドラッシュ」を任されることになった。
英国車にはあまり興味が沸かず、カワサキが気に入っていた和久井さんは、そのお店でカスタムも始めた。主にZ系のカスタムが中心だったが、バイクの整備などはすべて独学だったため、カスタムもお客さんのバイクを実験台として今につながるカスタムの技術を培ってきたという。
そして店を任されてから6年後の2001年に、ゴールドラッシュを閉めてZ系カスタムショップを現在と同じ「BULL DOCK」という屋号で設立した。
栃木県の地場のショップが全国にその名前が響き渡るようになっていった
設立当初は、いまほどZ系車両の価格が高騰していなくて、中古車を海外から輸入したり、国内で車両を見つけたりしながら平均して1台あたり300万円くらいでカスタムマシンに仕上げて販売していた。
ただ、次第に地場のお客さんだけをターゲットにしていることに限界を感じ始め、知名度を上がるためにバイク雑誌に広告を出稿するようになった。
それと並行して、イベントなどに併催されているカスタムマシンコンテストで優勝するようになるとBULL DOCKの作るカスタムマシンはすぐに雑誌に取り上げられるようになり、とくにカスタムを主に扱う雑誌にはBULL DOCKのカスタムマシンが常に掲載されていたため、その当時は「広告費をイッパイ使っているんだろう」と思われていたという。

鈴鹿8耐で開催されたカスタムマシンコンテストにおいて、2007~2009年の3年連続で優勝を飾ったBULL DOCのGT-M。
なかでも、編集や広告のスタッフが同年代だった「CUSTOM PEOPLE」(クレタパブリッシング発行)とは、協力し合ってBULL DOCKも雑誌も盛り上げようと歩調を合わせて切磋琢磨していたそうだ。
CUSTOM PEOPLEはもちろん、ほかのバイク雑誌の表紙をBULL DOCKのカスタムマシンが飾るようになるとともに、知名度もどんどん上がって行って、全国からお客さんがやってくるようになった。

BULL DOCKが作る美しいZカスタムはバイク雑誌に取り上げられるようになり、何度もいろいろな雑誌の表紙を飾った。なかでも、和久井さんと同年代のスタッフがいたCUSTOM PEOPLE誌は一緒にZカスタムを盛り上げてくれた存在だという。
そして12年くらい前に、自社が作るコンプリート・カスタムマシンに「GT-M」(ジェニュイン・チューニング・マシン)という名称を付けることにした。
「ウチが作ったバイクは見たら分かるから、名前なんかいらないとも思ったんですが、一定のルールの下で製作したことが分かるようにしました。3年くらい前からは、車両管理のためにシリアルナンバープレートも付けることにしています」
GT-Mと名付けたことで、中古車として流通する際や、オークションで売買される際も「GT-M車両」という由緒正しいブランド品のように扱われるようになったそうだ。

BULL DOCKのウェブサイトには、これまで製作したGT-M車両の写真が多数掲載されている。そのどれもが厳しいルールの下、オーナーのリクエストに応える形で作り上げられたオリジナリティにあふれるマシンだ。
何にでも使えて、コーティングもできてしまう。これはお客さん、みんな買っていきますよ!
BULL DOCKが作るコンプリート・カスタムは、近くでじっくり眺めるとその丁寧な仕上げに誰しも驚いてしまうだろう。とくに、マイコンで温度管理をしながらじっくりと焼付塗装を施したシリンダーはしっとりと濡れたように見え、息を飲むほど美しい。
「長期間持つように塗装には非常に気を使っているのに加えて、我々はプロだから拭き残りが出ないように細心の注意を払って作業しますが、お客様はやはりそこまではできない方もいらっしゃいます。空冷ならではの細かいシリンダーフィンの間なんか、ワックスなどを拭き残すとどうしても白くなってしまいます。その点、ゼロフィニッシュは伸びもよくて、拭き上げも簡単。白く残ることもないので非常にいいと思います」

ご自身の愛車の白いZを磨き始めた和久井さん。水洗い否定派で、ケミカルが白く拭き残るのが嫌なこともあって、中性洗剤を水で薄めて、それでバイクを磨いていたという。
「ゼロフィニッシュは、耐熱温度も高いそうですから、エンジンやエキゾーストパイプにも使えるところがいいですね。空冷のネイキッドマシンは、むき出しになったパーツそれぞれが美しさを放つので、これ1本あればいつでもその美しさを保てますね」
300℃の耐熱性能を持つので、美しい焼け色が付いたチタン製エキゾーストパイプや電気処理で色付けしたサイレンサーにも使用できることを和久井さんは気に入ってくださった。
ネイキッドマシンだからこそ、見える部分の美しさにとことんこだわっているBULL DOCKでは10年以上経っても空冷エンジンのシリンダーとフィンが白くならないような塗装を行っているという。
「これ、お客さんに紹介したら、多分みんな買っていきますよ。手軽にきれいになって、それが持続するなんて、まさにZカスタムにピッタリです」

現在は、車両代込みで600万円がスタンダード
BULL DOCKでは、車両持ち込みのお客さんもいらっしゃるが、基本は車両をBULL DOCKが用意して、それをベースに前述のGT-Mのルールにのっとって1台のコンプリート・カスタムマシンに仕上げていく。
GT-Mは「長く、安全に乗っていただく」をコンセプトに、①エンジンをオーバーホール ②フレームチェック ③電装系パーツを一新 という決められた3つのメニューをこなしながら、1台を丁寧に作り上げていく。
1972年に登場したカワサキ・900Super Four「Z1」を始祖とする空冷Zシリーズは、初期のものはすでに登場から40年が経過。車両のコンディションはさまざまだが、設計年次の古さは隠せず、現代のハイグリップタイヤを履かせるとストレスに耐えかねてフレームが折れてしまうこともあるとのこと。
しかし、Zシリーズの持つ美しいバイクらしい外観はほかに代わるものがなく、いまでも多くの人が憧れ、オーナーになりたいと願っている。
そんな方々のために、BULL DOCKと和久井さんは、GT-Mの3つのメニューを丁寧に施すことで、現在のバイクとそん色のない性能を持ったバイクにしていくのである。

(左上から時計回りに)エンジンルームには、分解され、新たなパーツを組み込まれるのを待つエンジンがずらりと並ぶ。フレームは単体で車両から取り外され、ゆがみの修正や補強が行われた後に美しく再塗装される。このGT-Mのシリアルナンバープレートが珠玉のコンプリート・カスタムマシンであることの証。サンドブラストを掛けられて、まるで新品のように磨き上げられたシリンダーヘッド。
「ベース車両で使用するのは、クランクケースなどエンジンの一部とフレーム、そしてタンクやメーターくらい。フレームにしても、適切な場所に補強を入れるなど、外観はSTDを保ちながら随所に手が入っています。エンジンも同様で、ピストンやコンロッド、バルブなどの内部パーツはほとんど変更しますし、クランクケースも変更する場合もあります。ミッションも作ります。Z系カスタムショップは多数ありますが、内燃機関のチューニングまでちゃんとできるところは少ないです。ウチは、例えばオイルポンプを新作するなど、必要なパーツは自社製にして信頼性や耐久性が上がるところまでやります」
エンジンや車体パーツにとどまらず、Z系カスタムマシンに合うオイルまで作ってしまうのだから、自ら作ったバイクを末長く楽しんで欲しいという製作者の熱い思いを感じてしまう。

必要なものはオリジナルパーツのMaccoyブランドで自ら作ってしまうのもBULL DOCK流。年数が経過して、各部に歪みやガタが出てしまうオイルポンプもSTDよりも高品質なものを新作し、チューニングしたエンジンに最適な添加剤などを配合したオイルまで作ってしまうのだ。
最近、オリジナルで製作したパーツにLAVORANTEというアルミ鍛造ホイールがあるが、昔のマシンだけに鉄の塊で、どうしても重量が重いZ系を軽量化するのに、カーボンやマグネシウムのホイールをチョイスする方向に行ってしまって費用がかさむところを、コストが比較的安めのアルミを素材に用い、しかし通常よりも強固なアルミ材を用いて鍛造製造することで強くて軽いホイールに仕上げている。もちろん、公道での使用が認められるJWL認定も受けている。
このように、必要なものを必要な部所に用いるのがGT-Mの基本的なコンセプト。前に、BULL DOCKを設立した当初は1台当たりの平均価格は300万円と書いたが、それがいまはナンバーを取得して公道で乗れるようにした段階の価格は平均600万円だという。
これは、Z系バイクの中古車価格高騰の影響もあって、ベース車両購入に150万円かかったとすると、諸費用を除くと残りは約300万円で、単価20万円のパーツが15個しか使えない。40年も前のバイクを、GT-Mのコンセプトである公道で安全に走れるようにするには最低限必要な費用なのだそうだ。
「カッコいいバイクを作りたいという自分の気持ちに、Zは理にかなっているし、応えてくれるんです。速く走るようにするために、パーツを開発するのもすごく楽しいです」
外装のデザインやカラーリングまで、すべて手作りで、自社で1台1台行うため、注文から納車までの時間は早くて1年。しかも、常に30台以上が順番待ちをしている状態だという。
1台のコンプリートバイクが仕上がると、それをお客さんに届けるのは和久井さんの仕事だ。トランスポーターにバイクを積み込み、北は北海道、南は九州まで自走で運んでいき、お客さんに仕様の説明をしてから直接、手渡しをする。
金額だけ聞くと誰もが驚いてしまうが、GT-Mはそれに見合う以上の価値と、完成度と、安心(1年間の保証付き)と、和久井さんの愛情が詰まっているのだ。
珠玉のZであるGT-Mオーナーの方には、ぜひゼロフィニッシュを使っていつまでも完成時の輝きと美しさを保っていただきたいと思う。
Photo/Shigeru Tokunaga
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■ ゼロフィニッシュ
■ マイクロファイバークロス
取材協力
BULL DOC
栃木県足利市大久保町957-2
電話:0284-64-9825
営業時間:9:30~18:00
定休日:毎週月曜日、第1、第3火曜日
http://www.bulldock.jp/
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約40年にわたり、編集者&編集長&プロデューサーとしてバイク雑誌の制作に携わり、2021年からフリーランスとして活動。バイクライフ全般に関する豊富な知識を持ち、いつまでも冷めない旺盛な好奇心が原動力。ゼロフィニッシュをバイク、クルマにフル活用している。
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