「EXECTIVE’S Choice――ゼロフィニッシュだけあればいい!」Vol.4
アールズ・ギア 代表取締役社長・樋渡 治さん

飛竜=ワイバンマークでおなじみのアフターパーツメーカーがアールズ・ギア。

代表を務めるのは、モリワキレーシング、スズキワークスで数々のレーシングマシンを駆り、いぶし銀のようなシュアな走りでファンを魅了し、マシン開発能力の高さでも高い評価を得ていた元レーシングライダーの樋渡治さんだ。

スズキ|ガンマ|RGVΓ|GP500

スズキワークスではGP500マシンのRGV-Γを駆り、参戦1年目の1988年にRGV-Γの全日本初勝利を挙げるなどの活躍を果たした。筆者Nomとの付き合いはこれ以前のモリワキレーシング時代からだから、もう40年近くになり、Nomは現在、アールズ・ギアのウェブサイトで同社の商品開発・製作の裏側について綴った「ものつくりSTORY」を連載・執筆中だ

レースを引退したのち、三重県・鈴鹿にアールズ・ギアを設立したのは1998年のことで、樋渡さん自身が徹底的に実走テストを行って作り込んだマフラーは、確実な性能アップと、チタン素材を多用することでの大幅な軽量化、そして細部まで一切手抜きのない、まるで工芸品のような美しい外観を持ち多くのユーザーの支持を受けている。

樋渡さんがものつくりでもっとも重視しているのは、お客様が大切な愛車に自社のパーツを装着したときに、ルックス及び走りまでグレードアップ出来て満足してくれること。したがって性能はもちろんのこと、エキゾーストパイプからサイレンサー、そしてマフラーを固定するステーまで、すべてのパーツを美しく仕上げることに徹底的にこだわっている。

性能も外観も、満足がいかなければいくら時間がかかろうと、納得がゆくまで作り込む。開発から発売開始まで2年以上の時間を費やしたマフラーまであるというから、その妥協のなさは半端ない。

そんな真摯なものつくりをする樋渡さんを鈴鹿の本社工場に訪ね、以前から使用していたというゼロフィニッシュについてお聞きした。

マフラーは手曲げ主体から機械曲げモデルに移行

東名阪自動車道の鈴鹿ICから約7分、鈴鹿市街へ向かう途中にアールズ・ギアの本社工場がある。

23年前に樋渡さんともう1人のスタッフのわずか2人でスタートしたアールズ・ギアだったが、現在は建坪600坪の巨大な本社工場内で20人以上のスタッフが働く。

アールズギア|社屋|外観|rsgear

アールズ・ギアの主力商品であるマフラーは、チタンやステンレスなどのパイプを設計図通りの長さにカットしてから美しい曲線を描くように曲げ、さらに表面を磨き、集合部やセンターパイプ、そしてサイレンサーといったマフラーを構成する数多くのパーツと組合せてから各部を溶接して1本のマフラー=エキゾーストシステムに仕上げていく。

その製作工程は非常に多く、さらにほとんどの作業が人の手によって行われる。したがって、メインの作業は自社で行い、他の部分は外注するマフラーメーカーが多いなか、アールズ・ギアは専門業者が存在する部分以外は可能な限り自社で行うことにしている。

それは、樋渡さんが常に「理想のマフラー」を追求するからにほかならない。

あまりに細かすぎて外注先に嫌がられるような細部のつくりへのこだわり、驚くほど多岐にわたるサイレンサーの形状、装着時にバイクにスムーズに迷いなく取付けが出来る精密な仕上がりなど、自社製でなければ実現できない非常に高い完成度を求めている。それも、誰もが息を飲むような美しい外観とともに。

ものつくりの理念は創業当時から一切変わらないが、使用する素材や製造工程は時代に合わせて変化してきた。アールズ・ギアといえば「チタンの手曲げマフラー」というイメージを持つ、古くからのバイクファンもいらっしゃるだろうが、現在はエキゾーストパイプの製法も、手曲げから機械曲げへと移行してきている。

理由はいくつかあって、まず機械曲げ用の製作機器の性能向上で手曲げと区別がつかないほど滑らかな曲線を描くようにパイプを曲げられるようになったこと。また、バイクの主流モデルがすべてのパーツがむき出しのネイキッドから、エキゾーストパイプが車体に隠れるフルカウルモデルが増えてきたこと。そして、職人がパイプの中に砂を詰めてバーナーであぶりながら時間をかけてジワジワと少しずつ曲げていくという非常に手間のかかるマニアックなつくり方にこだわらないユーザーが増えてきたことなどだ。

手曲げも機械曲げも性能には変わりはないし、こだわりのルックスを維持しながら、機械化によって生産能力が高まりお客様への納品スピードも高まることになった。時代とともにユーザーの嗜好に合わせて、アールズ・ギアのマフラーも変化してきているのである。

砂を詰めたチタンパイプを熟練の職人がバーナーであぶりながら丁寧に曲げることで、美しい虹色の焼け色と滑らかな曲線を描くのが手曲げの最大の特徴(写真上と中)。最近は製作機器の進化で、機械曲げでも手曲げのような曲線美に仕上げることが可能になった(写真下)

ただし、創業当時からのポリシーである、全域スムーズに吹け上がり確実にトルクアップして加速力が向上し、法律の範囲内で最大限、迫力のあるエキゾーストサウンドを実現することは不変である。素材や製法が変わろうとも、「理想のマフラー」を作るという樋渡さんの思いにはいささかの変化もないのである。

ゼロフィニッシュは3年前から工場で使っています

樋渡さんに案内されて本社工場内を歩いていると、スタッフの作業机の上などにゼロフィニッシュが置かれているのが目に入った。

「3年前、西日本のHondaドリームのイベントが鈴鹿サーキットで開催されたとき、ホンダの方が展示車をゼロフィニッシュで磨きながらこんなに便利でいいものがあるんですよ、納車整備の時などはマフラーから車体までゼロフィニッシュで磨き上げてからお客様にお渡ししていますと教えてくれたんです。それ以来、当社でも展示車両やマイバイクなどに使うようになってすごく重宝しています」

年間2万㎞以上走る筋金入りのツーリングライダーでもある樋渡さんだけに、自分の愛車であるBMW・R1250GSアドベンチャーの日ごろの手入れは欠かせないルーティーン。それだけに、手軽に汚れ落としとコーティングが一度にできてしまうゼロフィニッシュをとても便利に使っているようだ。

「ツーリングから帰ってきたら、軽い汚れの時にはゼロフィニッシュでさっと拭き上げています。最近のBMWはマット塗装の部分が多いので、どんなところにも使えるゼロフィニッシュはいいですね」

社用バイクのBMW・R1200GSアドベンチャーをゼロフィニッシュで磨きながら樋渡さん。

rsgear|bmwr1250gs|r1200gs

世界にわずか213台しか存在しない、超貴重なバイクであるホンダ・RC213V-Sも愛車の1台。さすがにめったに乗ることはないが、常にきれいな状態で保管したいからゼロフィニッシュで磨き上げているのだそうだ。

honda|rc213vs

「ヘルメットにもゼロフィニッシュを使っています。ツーリングから帰ってきたら、ゼロフィニッシュで汚れを取ってから保管していますから、ツーリング中は水拭きで汚れが落とせますね。そして、帰ってきたらまたゼロフィニッシュで汚れを落としてコーティングしてしまっておく。ツーリングに行く前と行った後は、必ずゼロフィニッシュを使用しています」

shoei|ヘルメット|ゼロフィニッシュ|施工

美しいマフラーにこだわる樋渡さんとアールズ・ギアだけに、常にバイクを美しく保ってくれるゼロフィニッシュはいまや欠かせないアイテムなのである。

マフラーに加えてビレットパーツにも注力していく

本社工場内で存在感を放っているのが、ふたつのボックス状の大きな機械。設計プログラムをセットすれば、自動でアルミブロックを削ってパーツを製作してくれるマシニングセンタである。

三軸マシン|五軸マシン|機械

1台はエキゾーストパイプのフランジなど、汎用部品などを量産するのに適している3軸のもの(上写真手前)で、もう1台は曲面など複雑な形状に加工することが可能な5軸のマシン(上写真奥)だ。

「マフラーだけじゃなくて、特殊アルミ合金から削り出したビレットパーツにも最近は力を入れています。いま、カーボンニュートラルなんて言われていますけど、エンジン付きのバイクがなくなっちゃったらマフラーもいらなくなりますからね」

冗談交じりに言う樋渡さんだが、このビレットパーツも樋渡さんの理想を追求する姿勢から生まれたものだ。

BMW用のマフラーを依頼されて作ることになった樋渡さんは、まずはBMWというバイクを深く知るところから開発をスタートさせた。それまで慣れ親しんできた国産車とは設計思想も作り方もエンジンも大きく違うBMWに最初は戸惑ったが、BMWディーラーのお客様と一緒にツーリングなどに出かけるうちに、BMWの高いツーリング性能にすっかりハマってしまった。

その結果、年間2万㎞以上走るツーリングライダーになったわけだが、日本人よりも大柄なヨーロッパのライダーがメインターゲットであるBMWだけに、ポジションも大柄。総じてハンドル位置が遠いためにバイクを自在に操ることがむずかしく、ロングツーリング時などには両腕の疲労感が強かった。プロライダーだった樋渡さんにしてそうなのだから、一般ライダーは推して知るべしだ。

そこで、樋渡さんはBMWのポジションを理想的にするためのパーツを作ることにした。当然、最初は切削加工を専門にする業者に製作を依頼したのだが、なかなか思い通りのモノができてこない。もうちょっとここをこうしてと、とにかく細かくリクエストする樋渡さんに対し、性能は十分達成しているのだからこれでいいだろうと業者は言う。

性能に加えて、見た目の美しさや高級感も重視する樋渡さんは、ここにもう1本切削ラインを入れたいなどと言い続け、しまいには業者があまりの細かさに音を上げてしまうような事態が頻発したという。

そこであきらめるのではなく、じゃあ自分で作ろうと思うのが樋渡流。非常に高価(モノにもよるが1台数千万円と言われている)で、複雑な加工が可能な高性能のマシニングセンタをいきなり導入することになり、これには取扱いメーカーの営業マンも大いに困惑したという。なぜなら、当時のアールズ・ギアには、そんな機械を操作できるオペレーターも、ビレットパーツを設計できるスタッフもいなかったからだ。

そんな経緯でアールズ・ギアに導入されたマシニングセンタだが、いまは専任スタッフも増員されて毎日フル稼働中。

BMW用のポジションパーツはもちろんのこと、最近、とても売れているのがホンダ・レブル250/500/1100用のハンドルセットバックライザー。大ヒットモデルだけに、乗る人も老若男女と幅広く、大柄なレブルの取り回しに苦労するライダーが多いからだという。

また、樋渡さんのこだわりようが見て取れるのが、このパーツに付けられたワイバンマークのエンブレム。なんとこれは七宝焼きで作られているのだ。当初は樹脂製だったが、色褪せを嫌った結果、現在の七宝焼きに落ち着いたのだそうだ。

バイクに七宝焼き。ほかには聞いたことがないが、これも樋渡流/アールズ・ギア流なのである。

いま大人気なのが、ホンダ・レブルシリーズ用のハンドルセットバックライザー。作っても作っても足りないほどだという。写真のようにアルミ特殊合金から削り出しで製作したのちにブラックアルマイト仕上げを施し、七宝焼きのワイバンエンブレムを封入する

メインはやはりマフラー。最近は250㏄車用も充実してきた

大柄なバイクのポジションを是正するハンドル用パーツに加え、ライディング中の膝の曲がりを緩和するステップキット、さらにサイドスタンドの下に固定してバイクの傾きを緩和し、設置面積を拡大することで停車時の安定性確保にも寄与するスタンドハイトブラケットと、ビレットパーツのラインナップをどんどん拡充しているアールズ・ギアだが、メイン商品はやはりマフラーだと樋渡さん。

「コロナ禍の影響もあって、昨年の後半から今年に入ってもマフラーは好調に売れています。そして、いまバイク人気がとても高まっていて、それにアウトドアブームが重なってバイクに乗り始める人が増えています。バイクにとってマフラーというのは、やはり特別なパーツで、性能や音が変化するだけじゃなくて、バイク自体を全体にグレードアップしてくれるんです」

最近は、創業当時からメイン機種だった大型バイク用に加えて、マーケットでも人気が高まっている250㏄車のラインナップも増やしている。

「カワサキ・Ninja250やホンダ・CBR250RR、ホンダ・レブル250用マフラーを出したことで、『いままでは大型用しかラインナップがなくて、付けたくても付けられなかった憧れのアールズ・ギアブランドのマフラーをやっと付けられました』と言ってくれる若いお客様が増えてきました。とても嬉しいことです。250から始めて大型バイクにステップアップして、末長くウチのマフラーを付けてもらいたいですね」

最近、マフラーのラインナップを増やしているのが250㏄クラス。写真はカワサキ・Ninja250(上左)、ホンダ・CBR250RR(上右)、ホンダ・レブル250(下左)、カワサキ・ZX-25R(下右)

現在は今年発売されたスズキ・新型ハヤブサや、大人気になっているホンダ・GB350のマフラーを鋭意開発中だが、緊急事態宣言の影響でマフラーの国家認証テストが行えない状態が続いていて、マフラーメーカーにも大きな影響が出始めている。

「新型を購入された多くのお客様がウチのマフラーを待ってくださっていますから、緊急事態宣言が解除されてテストが再開されたら、すぐに製造・販売できるよう準備を進めています」

いつの時代でも、バイクをグレードアップして、もっともっと大切で魅力的な存在にしてくれるマフラー。樋渡さんはライダーにとって大切な愛車の価値を大きく向上させてくれる、高性能で美しいマフラーの大切さと、それによってその方のバイクライフがより楽しいものになることを誰よりも知っているのである。

ゼロフィニッシュ|マフラー

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ゼロフィニッシュ

取材協力:株式会社アールズ・ギア

三重県亀山市のぼの62-9
電話:0595-85-8778
https://www.rsgear.co.jp/

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