
気高いカブの機能美フォルムは いつも光り輝いていてほしい
インジェクション仕様のスーパーカブを知り尽くす男、「RCRハングアウト」の冬室浩氏にシュアラスター・ゼロフィニッシュの使い勝手を体験してもらった。
スーパーカブ所有者は「カブ主」?
あのカブに情熱を注ぐ人たちがいる。
「カブって、あのスーパーカブ?」ともしかしたら訝しがるかもしれないけれど、そのカブのことである。
新聞配達の、郵便局の、オカモチの、お巡りさんの、みんなの相棒スーパーカブ。世界のホンダの出発点にして、発売60年以上が経った現在でもまったく人気の衰えないオバケのようなタフネスマシン、スーパーカブ。
そんなカブをビジネスバイクとしてではなく、ホビーバイクの対象として可愛がるライダーがたくさんいることをご存じだろうか。
最近だと「カブ」と「株」をかけて「カブ主」なんて言い方をすることもあるのだが、そんなカブ主たちこそがカブを愛してやまないカブフリークであり、2020年現在、ホビーバイク界を賑わしているカブ人気の一翼を担っている。
彼らは方々でコミュニティを作って組織的に活動し、ひとたびミーティングを開けばたくさんの愛好家が遠路はるばる集まってくる熱狂ぶりがメディアでも伝えられている。カブ自体も二輪誌でもたびたび特集が組まれ、それぞれに売れ行きも好調らしい。

スーパーカブは現在進行形のハイメカバイク
カブは製品としての歴史が長いぶん、モデルチェンジの数も限りなく多い。
外観こそそれほど大きく変わらないものの、内部のメカニズム進化のために、時代ごとに最新のものが惜しまず盛り込まれてきた。メーカーの“本気”は、その道のプロ目線でも各所に見てとれるという。
よってルックスの変わらなさに「中身もそれなりでしょ」と高をくくるのは大間違い! 最新のカブは最強のカブとして世界中で好セールスを続けているし、バリエーション(派生)モデルも多岐にわたっており、それぞれの国に合わせた“仕様”違いの数もまた無数に存在するのだ。
つまり奥が深くて全容をつかむことがなかなか難しい、まるで富士山のような国民バイクなのである。

「4ミニ」というコアな世界がある
そんなカブをメインに扱う『RCRハングアウト』の冬室浩(ふゆむろひろし)さんが、今回のインタビューに応えてくれた人気ショップのオーナーだ。
冬室さんは永らくサーキット走行を前提とした4ミニ(4ストエンジン搭載のミニバイク)レーサーの製作を手がけており、基本的にそれは現在でも変わっていない。
あのヨシムラジャパンがパブリックに認定するショップ(「テクニカルショップ」という)が全国に15店舗ほど存在するのだが、その中でも4ミニを取り扱い車種の中心に据えているのは唯一「RCRハングアウト」だけである。
つまり、ヨシムラ公認の唯一の4ミニ専門店。そう言えば、ショップのハイレベルさが伝わるだろうか。
ひと口に「4ミニ」といっても、取り扱い車種は時代とともに大きく変化しているという。RCRハングアウトとて例外ではなく、現在メインでチューニングやメンテナンスを施すのはスーパーカブやクロスカブが大半だ。しかもそれらは旧世代のキャブレター車ではなく、環境性能を向上させたモダンなインジェクション(FI)モデル。
つまりここ最近の新型カブが中心なのだ。

チューニングの楽しみ方はさまざま
「カブには、昔から有名なスペシャルパーツ武川やキタコ、デイトナ、キジマ……キャブ車のカブには各社から、星の数ほどチューニングパーツが用意されています。それらのパーツを活用して週末に自分でぜんぶ組むもよし、難しいところだけショップに頼むもよし、トータルで大がかりなメニューをプロに組んでもらうもよし。ひと口にチューニングといってもユーザーによって、さまざまな楽しみ方があります。
もともとパーツ単価が安いので手が出しやすいし、仕組みも比較的シンプル。車体まわりのスペースに余裕があってイジりやすいし、エンジンだってなんとかひとりで下ろせてしまう重さです。もちろん車体も軽量コンパクトなので、マンションの狭い駐輪場に置いてもそれほど邪魔になりません。
いまどきのライダーまわりの諸事情をおもんぱかっても、カブはメリットばかり。そんな手軽な雰囲気が、『安価なカブをベースにチューニングを楽しみたい!』という市井のバイク好きのハートを刺激するのかもしれませんね」

30代はひたすらレース活動に専心
そんな冬室さん自身はいつ、どんなかたちでバイクと、そしてカブと出会ったのだろうか。
「福島県小名浜市の南、勿来で生まれた僕には3歳年上の兄がいます。その後、小学校のときに世田谷に引っ越して上京。自分が16歳のときに大学生だったは兄は、初期型のRZ250Rに乗っていました。そのRZを貸してほしくて僕は中免を取ったようなものでしたから。
マンガ『ふたり鷹』を熱心に読んでいた記憶はありますが、寝ても覚めてもバイクというよりは女の子とデートするのためのアシが欲しいってカンジだったなあ(笑)。
RZが壊れたあとにTDR80、R1-Z、JOG90……いま思えばヤマハばっかりですね。ガソリンスタンドでバイトしながらバイクいじり、クルマいじりの楽しさにのめり込んでいきました。
勢いあまってそのままスタンドに就職、27歳で所長になり、29歳で整備士の資格を取りました。いったんはすっかりクルマに奪われていたノリモノへの関心だったけど、ちょうどそのころにバイク熱が再燃。
2つのバイクショップを転職しつつ、DE耐や菅生ミニバイク耐久、茶耐などでのレース活動が自分の周囲でにわかに盛り上がっていきました。ホンダ・エイプなどに搭載される、いわゆる縦型エンジンばかりをチューニングしていましたね」
その後冬室さんは、自分のショップ「RCRハングアウト」を立ち上げる。2005年のことだった。

恩師との別れ、横型エンジンとの出会い
本来の熱心な気質、そして自前の根気強さで、数多くの耐久レースで結果を出した冬室さんだったが、ひょんな出会いから、自ら師と仰いでいたメカニックが専門にしていた横型エンジン(カブやモンキー、グロムなどに搭載)を触ることになった。
「もともと師匠が専門にしていたエンジン型式だっただけに、そこに領空侵犯はしないと心に決めていました。しかしその師匠が2010年に他界し、同じようなタイミングで持ち込まれたスーパーカブ110を高出力化する案件……『師の遺志を継いで、真剣に横型に取り組んでみよう』と思ったはじめての瞬間でした。
実際の作業は問題山積み、試行錯誤の連続で、なかなか簡単には前に進まなかった。ようやく作り上げたカブを過酷な耐久レースでテストし、そして満足のいく結果が得られたことで決意がホンモノになった気がします。ヨシムラとの付き合いもちょうどそのころからスタートしましたね」
人の縁とは不思議なもので、現在もRCRハングアウトと(まさに)軒を連ねる老舗ファクトリー「BRD」と手を取り合ったのもそのころだったという。
BRD、ビトッチという名前に記憶があるライダーは、きっと過去にミニバイクに夢中になったことがあるはずだ。

ゼロフィニッシュは僕のようなメカニックのためにある
レースマシンの製作と、横型エンジンの試作・チューニングを並行させていた冬室さんだったが、その比率は徐々に横型に移っていったらしい。
「オリジナルの鍛造ピストンの開発も順調に行き、このクオリティならお客さんのバイクに組み込んでもハイポテンシャルと耐久性の両方を担保できる、というところまでこぎ着けました。スーパーカブ/クロスカブのお客さんもだいぶ増え、パーツの受注や組み付け依頼もアップ。いまではすっかりインジェクション世代のカブシリーズがメインの取り扱い車種になっています。
僕のようにひとりでショップを切り盛りしているメカニック兼オーナーみたいな個人ショップでは、お店まわりのすべてのことになかなか手が行き届かないのが実情です。
そんなとき、シュアラスターの『ゼロフィニッシュ』はめちゃくちゃ助かりますね。セッティングを繰り返しつつコンディションを完璧にもっていって、いざお客さんに納車という段になっていつも感じるのは、
『外装も中身と同じように、ミントコンディションにしてあげたい……』
ということ。これを実現するにはこれまで時間が必要でした。
ゼロフィニッシュはそれを、たったひと手間で可能にしてくれるのですから嬉しいかぎり。ついいろいろ欲張ってしまう自分のような人間には、これ以上ない便利なケミカル用品なんですよ(笑)」

スーパーカブにこそゼロフィニッシュが必要だ
「ショップをひとりでまわすことでこそ維持できる、行き届いたパーフェクトなクオリティがあると僕は信じています。
ただし、どうしても時間だけが圧倒的に足りない。そんな僕を確実にバックアップしてくれるのが、ゼロフィニッシュのような優秀な製品なのです。
専用クロス片手にシュッとひと吹き、サッと拭き上げ。たったこれだけで汚れが簡単に除去できるし、なによりなめらかで深い艶をフェンダーやレッグシールドに与えることができる。
カブだから、実用車だから少々汚れていても構わないは、僕は認めたくありません。むしろ“だからこそ美しく”にこだわっていきたいんです。そのことがカブの普遍的な価値を高めてくれると信じています」
最後に、冬室さんにとってカブはどんな存在なのかを聞いてみた。
「工場出荷時から高いバランスで組まれているのがスーパーカブ。そのバランスやノーマルの好コンディションをけっして崩すことなく、慎重に慎重をかさねることで完成度の高いチューンド・カブを作ることができます。
僕はカブは実用車でありつつ、それ以前に立派な“オートバイ”だと感じています。それは理屈ではなく、乗ったことがない人でもひとたび乗ってさえくれれば、誰もが納得できる事実だと思います。
スロットルのオンオフ、ブレーキング、左右へのバンク、なにより底抜けに楽しい疾走感……そのどれもが“オートバイしている”のですから!」

photo:高柳健 text:宮崎正行
時期で紹介されているアイテム
取材協力
RCR HANGOUT
現在スーパーカブ/クロスカブ110、50を中心に、4ミニ全般のチューニングを行うプロショップ。レースフィールドで培った幅広い経験と精緻なテクニックを駆使してメイクする一見“フツーのカブ”。その中身のバツグンの楽しさに、全国からたくさんのオーナーが集まってくる。
住所: 埼玉県所沢市亀ヶ谷271-7
TEL: 04-2990-8613
www.rcr-hangout.co.jp
関連記事

MASAYUKI MIYAZAKI
宮崎正行
人文系出版社・夏目書房、自動車系出版社・二玄社/ボイスパブリケーション(『MOTO NAVI』、『NAVI CARS』、『BICYCLE NAVI』編集部)勤務を経て、編集フリーランスとして独立。オートバイ、クルマの専門誌から一般誌、WEB、広告媒体において幅広くコンテンツを制作する。1971年生まれ。自分のアイデンティティは小中高時代を過ごした中野区にあるとひけらかしつつ、大半の時間を埼玉県で費やす。中途半端に旧いモノが大好き。
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。