
人間ドラマあふれる競輪の魅力 -競輪A級 川上真吾選手-
専用トラックを使用した自転車競技の中でも最高峰のスピードを誇り、今では五輪競技の「KEIRIN」として世界中で多くの人を魅了する競輪。
同じ自転車に乗っているとはいえサイクリストであっても観戦したことがある人は少ないかもしれません。今回は現在競輪A級で走り続けている川上真吾選手に、競輪観戦の魅力、選手として惹きつけられる走る魅力、そしてその選手生活をサポートしているシュアラスターの自転車ケミカルの使い方について、自宅に併設されている特設トレーニングルームにて話を聞かせてもらいました。
競輪との出会い
僕自身はサイクリストでありながらも実は競輪ってあまり詳しくなく、失礼な言い方かもしれませんがギャンブルのイメージも強くて。なので、今日は川上選手にお話し聞けることをとても楽しみにしていました。
まずは自転車を乗り始めたきっかけを教えて下さい。
もともとは競輪ファンだったんですよ。実は子どもの頃から競輪好きだった父親に連れていかれて競輪場には良く足を運んでいて、いま思えばその速さに魅了されていて観戦していたんです。そんなこともあって二十歳になってからは一人で競輪場に通っていました。ギャンブルから自転車業界に入りました笑。
川上選手

子どものころから馴染みのある競技だったんですね。
はい、とにかくスピード感がすごいし、とはいえお金を賭けていることは子どもながらに知っていたので特別な人がやるものだと思っていたので、当時はかっこいいなーと思いながらも自分でやってみたいとは全く思っていませんでした。
川上選手
やろうと思っていなかったにも関わらず結果的に競輪選手になった、きっかけはなにかったんですか?
競技とか関係なく趣味で自転車乗ってみたいな、とは思っていたのですが大学もバスケ部に入っていたのでなかなかきっかけがなく、大学卒業後に教員免許のために数単位必要になっていて少し時間があったんです。そのときになにか体動かすことないかな?と思いふと競輪学校のことを調べたんです。
川上選手
そうしたら、自転車競技経験がなくても体力測定だけで入学できる適正試験の枠があることを知って受験したら一発で合格できたのでこの世界にはいることになりました。 受験すると決めてから教わった師匠にも恵まれてとても良い環境で受験できたので合格したのですが、当時は、なんだ、俺でもできるじゃんって少し思っていました笑。
競輪の特殊な世界
師匠という言葉が出てきましたが、ウェブサイトで競輪選手の情報をみると必ず師匠や弟子、という記載がありますが、スポーツの世界でこの関係性を打ち出しているのはとてもめずらしいなと思い、詳しく教えていただけますか?
そうですね、まず競輪学校に入る前に師匠を探して弟子入りすることから始まります。自分で連絡しても良いですし、選手会に問い合わせれば教えてくれたりもします。
川上選手
師匠についてまず競輪学校にはいること(プロ入り)を目指します。僕の場合は同じ地元の町田市の選手に連絡をして弟子入りして一緒に練習してもらったりして面倒みてもらいました。 その関係性は選手としてデビューしてからも続いていますので、落語家みたいな感じでしょうかね。
僕も弟子は4人いますのでいまは面倒をみる立場になっています。だから、このトレーニングルームには鍋や炊飯器もあります笑。ご飯セットしてからトレーングに出かけて、帰ってきてからみんなでご飯を食べる、合宿みたいな感じですね。

師弟関係が明確にある競技は珍しいですよね。
はい、でも師匠と弟子の関係性は人それぞれ違いますので、僕は学校に受かるまでは比較的厳しく指導していますが、楽しく続けられるのが一番良いですから同じ選手の立場になったら弟子でも友人のように接しています。僕の師匠もそのような接し方をしてくれましたらから。
川上選手
師匠と一緒のレースを走ることもあるんですか?
もちろんあります。ギャンブルなので手を抜くことはできませんが、師匠のために前を引くのは選手なら誰でもやりますし、むしろそうしなきゃいけない。新聞にもその情報はちゃんと書かれているのでお客さんも選手の関係性を把握しています。なので、弟子が師匠をたてない走りをしたら逆にお客さんからなんだあいつは、って言われちゃいますし、出走前にコメントを求められたら今日は師匠のために走ります、って公言してその通りの走りをします。
川上選手
これは師弟関係だけでなく、僕の場合は東京の選手会所属でラインを組んで走ることも多いので、単純に個人の速い遅いだけでなく、そういった人間関係が勝敗に大きな影響を与えているのも競輪観戦の魅力につながっていると思います。人間らしさが溢れているレース、とでもいいましょうかね笑。
単純に毎回だれが一番速いか?一発の力量を競っているレースだと思っていましたので、それは観ている方もドラマがあって面白いですね。

はい、その人間関係でまとまったものをチームではなく「ライン」と呼ぶんですけど、転ばせなければオッケーなルールなので、ラインの最後尾の選手は他の選手に肘打ちや体当たりをしたりして、ラインで先着するために勝負をしています。転ばせずに相手を失速させるのが競輪の高等技術ですね。
川上選手
そのラインの中で貸し借りも生まれてくるので、前回助けてもらったから今回は助けてあげようとか、その前後のレースからつながっているドラマがあって、それが競輪の特殊性であって一番おもしろいところです。
熱心なファンはそういう人間味溢れるドラマを楽しんでくれていると思います。それがまたギャンブルだからそこまで読まないと当たらないですね笑。
人間関係がレース結果に影響を及ぼしている、これは一度競輪場に行って観戦しないとです。
だいたい一人の選手で年間100レースくらい走るので、その流れの中で毎回レースでの立ち振舞が変わるので、一人の選手を追ってみても面白いかもしれません。
川上選手
年間100レースってことは1年中走っていると思いますが、そうなるとピークを作るわけでは無いと思うので、体調管理の面ではすごく難しいですよね?
はい、他の競技みたいにオフシーズンがあるわけでも無いし、この大会に向けてピークを調整していく、という競技でもありませんのでとても難しいです。
川上選手
常にレースをしている状況なので、いつもニュートラルな自分でいる必要があります。極端に落としてもダメだし上げすぎてもダメ。ニュートラルは自分の平均値がなるべく高くないとダメなんです。頑張り過ぎないのも重要です。特にメンタル面も問われますね。明日来て走れる?という急な召集にも対応するので、年間100レースの中でどこかにピークを作ってはダメで、いつも同じレベルの状態です。
今はトレーニングも科学的だしスポーツ選手として扱いですが、昔はスポーツ選手ではなく「着順職人」と言われていました笑。
つねにアベレージを出せる状態でいるのは、ピークを作ることよりも数倍難しいイメージがあります。
レースもミッドナイトと呼ばれる夜のレースや朝のレース、昼間のレースなど時間も様々ですし、レースに出るときは4人部屋の宿舎に3泊4日滞在で外出禁止、もちろん携帯もネットもその間は使えません。その間やることも無いので、選手同士のコミュニケーションが蜜になるので、先輩に後輩がお茶を入れたり、意外と古き良き文化がそこには残っています笑。
川上選手
そういう意味ではすごく特殊な世界で、僕が子どもの頃に特別な人が走っていると思ったことってまんざらでもないと思います。

コンディショニングという面では食事やトレーニングなども細かくプラン組んだり気にされていますか?
プロテインを摂って3食しっかり食べるということくらいで、その他は特別なことはやっていません。昔は宿舎でもお酒を飲めましたし、ニュートラルなレベルが高い人は二日酔いでも走っていましたからね笑。とはいえいつ呼ばれても走れるように常に体調は維持しておく必要がありますので、普段から変わらない生活をしていることも大事です。
川上選手
急に呼ばれたときにきちんとレースで走れることは次の招集にも繋がりますし、どちらかというとメンタル面の方が重要かもしれません。
そして技術介入度がとても高い競技なので選手生命も長くて、現在も60歳で現役選手、という方もいらっしゃいますね。若手が力で勝負している後ろで、ベテランが技術で勝負を仕掛けている。圧倒的に勝てるときでも敢えてタイヤ差くらいで勝つことで前を引いてくれた若手を2着に残すことができる技術での勝ち方とか。そこもまた競技の見どころの一つかもしれません。
なるほど、そうするとトレーニングでコンディションを整えるというよりは、毎日レースを走る中でつねに体ができあがっているという感じですね。競輪のお話し、初めて聞きますが同じ自転車でもロード競技とは全く違う世界なのでとても興味深いです、何時間でも聞いていたいです笑
飲みながら話したいですね笑
川上選手
オーダーメイドの競輪機材
毎日レースで使う自転車機材は、ビルダーさんにオーダーメイドで作ってもらっているということも少し聞いていたのですが、こだわりやビルダーさんとの相性などもあるんですか?
ありますね、ビルダーさんは基本的には町工場で頑固おやじが作っている笑、みたいなところが多いんですが、僕はストラトスというビルダーさんに作ってもらっています。 家から近くて師匠が使っていたので紹介してもらったのですが、結果も残せていますから今では信頼してすべてお任せしています。
川上選手
オーダーはどこまで調整するんですか?
クロモリ素材の硬さや、パイプはミリ単位で調整しますし、太さも様々な種類があるのでその中から選んで組合わえて行くイメージです。フロントフォークのカーブ(トレイル)の角度も調整できるので、直進安定性を出すこともできますし、肩で勝負する競技なのでポジション取りがしやすいように前輪の前端と肩が揃う位置に調整したり、かなり細かいところをいじっています。 もちろん数値も大事なんですが、乗った感覚もとても大事なので今までの経験なども踏まえて相談しているイメージです。
川上選手

そこまでやるんですか、そもそも競輪で使うための細かいレギュレーションもあるんですか?
素材はクロモリに限られますし、基本的にNJS(日本自転車振興会)のマークが付いたパーツしか使用できないので、それをビルダーさんが用意していてその中から選んでいきます。コンポーネントはシマノのデュラエースを使っています。
川上選手
ビルダーさんが免許を所得して選手の自転車を作っていますので、僕たちは細かいことは気にせずにそのあたりのレギュレーションはお任せしています。現在は30社くらいのビルダーさんがいて納期は大体8ヶ月待ちくらいのようです。
川上選手のジオメトリ(バイクの寸法) 天井に掛かるバイクの数々
一般のサイクリストにもビルダーさんの作ったフレームは今人気がありますからその影響もあるんでしょうね。
あとはギア比の規制もあるので、4回転未満(3.99)しか使えないのでいまは52-13(3.92)を主に使っています。前後のギア比を変えて47-12とかでも3.92という同じギア比を出せるんですが、踏み込んだ感覚や惰性の出方が全く違うので、自分の経験上は52-13の組み合わせがベストです。
川上選手
機材のメンテナンス
一瞬の勝負のための感覚や経験ってすごく大事だと思いますので、そういう話はサイクリストとしてとても興味深いですし面白いです。
ほぼ毎日レースで使っている中で、メンテナンスはどのようにされていますか?
ホイールも組めるしスポークが折れても直せるので基本的にはすべて自分でできますが、時間がなかったりフレームが歪んでしまった場合はビルダーさんにやってもらったりしています。レースの現場でホイールやタイヤに問題がでた場合は競輪場の検車員にお願いすることもあります。 技術的に自分でできない、ってことは無いかもしれません笑。
川上選手

では洗車やチェーンへの注油はもうお手の物だと思いますが、実際にシュアラスターの自転車ケミカルを使ってみてどうでしたか?
まずチェーンクリーナーで良かったのは、普通のパーツクリーナーと比べて「落としすぎない」感覚がありますね。例えば車用のパーツクリーナーとか使うともともついている油分も落ちてしまってシャリシャリした感じがあるんですが、このクリーナーは汚れをしっかり落としてもともとの被膜を保ってくれていて非常に良いです。
川上選手
なので、その落としすぎない性質を利用して、ハンドルのグリスを使っている部分とかBBとかの掃除にも実は使っています。乾きすぎずに適度に油分が残ってその後のメンテナンスも楽です。

洗浄力が強すぎるとチェーンのもともとの油膜を落としすぎてしまう、という話は僕も自転車ショップで聞いたことがあります。あまりにも落ちが良くて油分がなくなるのはそれはそれでちょっと問題になるみたいなので、その感覚は正しいのかもしれません。
やっぱりそうなんだ。今は高いチェーンもあるのでそういう高品質なものを長く使うためにはこういうクリーナーでのメンテナンスは経済的で良いと思います。いまはHKKのチェーン、スプロケットはシマノのデュラエースを使っているので、使って洗ってを繰り返してダメになるまで使い込みます。 レースでももちろん持ち込んでいて、少しでも汚れを感じたらクリーナーを使ってその場で毎レース汚れを落とすようにしています。
川上選手
なるほど、気軽に使えるのも魅力ですね。
チェーンルブはいかがでしょうか?
これが実はかなり気に入っています笑。こういうスプレータイプっていままでは油分を感じられるものが少なくて粘度が高いものを使っていたんですが、見た目がサラサラなのにしっかり油分を感じられる。そしてスプレーで使えるのは垂らすタイプよりも施工が楽で実際レースで使っても違和感なくかなり気に入っています。
川上選手
そしてこれもオイルの特性的に問題ないかなと思い、ハブやペダルなどの回転部分にも使っています。浸透性も高く、サラサラなのにちゃんとした感じがよく、また競輪の場合はバンクにオイルを落とすのはNGなので塗りすぎるのも良くないので、このくらいの質感と量でしっかり油分を感じられるのは競技の特性にも合っていると思います。
雨なんかでずぶ濡れになったときは全部綺麗に洗うので、その時は落としやすさもあるのでその流れの中でも使いやすいです。

かなり気にいっていただけたようですね笑。
はい、どちらも気に入っちゃいました笑
川上選手
どうしてもスプレータイプって、簡易的な製品のイメージがあったし、他の選手にはまだそういうイメージ強いだろうし、実際は1滴づつ垂らすタイプが競輪競技では主流だと思います。
しかしこれはかなり良いと自分で使ってみて感じたので、競輪場内に選手専用の売店があるんですがそこで取り扱ってもらおうと提案しているところです笑。

なるほど、それは実際に使ってみて本当に良さを感じていただけた証です。口コミが一番信頼できますので、近い将来競輪選手はみんなシュアラスターユーザーなんてこともありえますね。
競輪の魅力
競技からメンテナンスまで色々と楽しいお話をありがとうございました。
川上さんと今日お話するまではどうしても「競輪=ギャンブル」というイメージが先行していましたが、色々なお話を聞いて正直いうとイメージがガラッと変わりました。今度競輪場に観に行こうと思っています。
そして、同じ自転車を乗るサイクリストでも競輪の事をよく知らない人が多いと思います。そんな方々に向けて伝えた魅力や楽しさはどんなところでしょうか?
やっぱり人間がやっているからドラマがある、ということに尽きます。
川上選手
選手同士の思惑もあるし、車券を買っているファンも、この選手は最近勝ってないから応援しよう、とかそういう気持ちで観戦している人も多いと思いますし、先程もお話しましたが「選手同士の人間関係」をレース毎に読んで買う人もいるでしょう。
いまはコロナ禍もあり競輪場はガラガラで、ネットで買って観戦もできますが是非一度足を運んで頂いてそのスピード感と人間ドラマを実際に体感してほしいです。

今度、川上さんがでるレースを観戦して、川上さん一択で賭けてみようと思います。
今日はお忙しいなかありがとうございました。
文中にも書きましたが、サイクリストで自転車に親しみがありながらも「競輪=ギャンブル」というあまり良くないイメージをずっと持っていたのですが、川上選手からお話を聞くことでそれは間違った認識だったことがわかりました。
もちろん賭け事の側面は持っていますが、そこで行われていることはとても人間味溢れることで、今はあちこちで失われてしまった昔ながらの職人的な良き文化も継承されています。そして世界に目を向ければ「KEIRIN」として五輪種目にもなり、競輪選手も国内だけでなく世界一を目指す場もあります。
使っている自転車やルールは色々と違いますが、基本的には同じ自転車に乗るサイクリストとして、とても興味深い話が多かったですし、これを機会に一度本場(競輪場)にも足を運んで、スピード感と人間ドラマを体感したいと思っています。
そして、シュアラスターの自転車ケミカルは、川上選手の口コミからスタートして今後競輪選手の間でスタンダートなケミカルになるかもしれません。
今後シュアラスターでは、川上選手をゲストに招いたライドイベントも随時開催する予定です。競輪選手とサイクリストがもっと気軽に触れ合えて交流することで自転車業界の盛り上げに一役買えたらと思います。
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サイクリスト。
会員制サイクルコミュニティ「CYCLE COMMUNE TOKYO」主宰。
40歳から乗り始めたロードバイクにどっぷりとはまり、安全で楽しいサイクリングを多くの人と楽しみたいたいとの思いからサイクルコミュニティを立ち上げる。
また、様々なブランドの自転車関連の企画やライドイベントにも携わるフリーランスのサイクリストとしても活動しています。
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