ゼロフィニッシュの嬉しい誤算。ユーザーだけが知る共通体験とは?

スズキ製油冷エンジンの潜在パフォーマンスを最大限に引き出してみせる「Garage db」店長の前田憲明さん。
そのテクニックはマシンのチューニングにとどまらず、レーサーとしてもサーキットで目の当たりにすることができる。
才能あふれる彼に、ゼロフィニッシュの使い勝手を問うた。

油冷至上主義者ではまったくない

スズキの油冷車をメインに腕をふるうバイクショップ──と、聞いてすぐに車種を何台か想像してみる。初期GSX-R750/1100、GSF750/1200、バンディット1200……。どれもこれもたくさんの固定ファンがついている、じつにマニアックでメカニカルなビッグバイクたちだ。そんな“濃いめ”のバイクたちにもっぱら情熱を注ぐ個人経営のショップオーナーさんって、どれほど強烈な油冷フリークスなのだろうか?

そんな先入観をあなたが持ってしまったとしても、それは長年のバイクキャリアゆえ。誰も責めはしない。スズキとは、油冷とは、はたしてそういうものである。

しかし実際にお会いした店主、前田憲明さんはそのステレオタイプなイメージをするりと覆してしまった……ある意味、残念ながら。表現がむずかしいが、「さわやか野武士」という印象なのだ。裏になにかを隠し持っている感じはするものの、粘着質なところはまったくない。

なぜ油冷なのかを問えば、「タフ」「チューニングしやすい」と至って明快な答えが返ってくる。「トルクが太すぎて扱いにくい」というのも、前田さんにとっては興味がそそられる油冷ならではのキャラだという。

その明るさはショップの名前にも表れている。Garage db。dbはなんと「デブ」のこと。いいんですか、それで? と心配になるが、どうもそれでいいらしい。腹をポンポンと叩きつつ、「これでもピーク時よりは、だいぶ痩せたんですよ〜」と笑っている。いやはやステキだ。

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うまくいかなかった中学、高校生時代

1971年、東京生まれの49歳。両親が共働きで幼いころから鍵っ子だった前田さんは、転校した先の小学校や塾でも成績はかなりの上位だった。しかしそのころから勉強よりも学校の外への興味の方が断然強くなり、気質として備わっていた放浪癖がますます加速していったという。

「幼稚園のときの近所のゲームセンターや駄菓子屋通いにはじまり、小学生になってからは人目を気にせず自転車やバスに乗って、行きたいところへ行く。そんな子どもでした。家にいてもつまらないから抜け出しては昼夜関係なく出歩きましたし、同級生とつるむよりもひとりで思いっきり遠くの場所へ行くのが好きでした」

進学塾にもいまいち馴染むことができず、悪さをすることでますます居場所がなくなっていった前田さん。偏差値の高い私立中学への進学という当初の目標も、もはやどうでもよくなっていった。

「勉強は苦手じゃなかったし、お受験もしたことはしたけれど……自分の関心はだんだんとそこから離れていきましたね。けっきょくたった1年で放校され、地元の公立中学校に戻るハメに。中学生の半ばくらいまでは父親は怖い存在でしたから、疎ましいと思いつつ『群れるな』『仕返しするな』などの言いつけは守っていましたよ」

しかしある出来事を境に、その状況が一変する。

「部活で柔道を始めたことで、がぜん体力がついてきたんです。すると一度も勝てなかった腕相撲で、父親にいきなり勝てるようになるわけです。ここがチャンスとばかりに、それまでの体罰に抵抗するために反撃に転じました。そしてあろうことか負かしてしまった。ついに“そのとき”が来たわけです。『仕返しするな』の禁も、まさかの当人相手に破ってしまったという(笑)」

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バイクに乗るためだったら何でもできた

「少し話が前後しますが、はじめて乗ったバイクは小学生から中学生のときまで所属していた少年野球チームの監督が乗っていたゴリラ。練習場所の河川敷で『乗ってもいいよ』と言われて、夢中になって走らせました。いきなりのミッション車だから、すぐにうまく乗ることができなくてコケたりもしたんだけど、監督は怒りませんでしたね。笑いながら『大丈夫か〜?』って。これが僕とバイクの、最初の出会いでした」

前田さんは、楽しかったゴリラが忘れられなかった。

「バイクに乗りたい──」

高校1年生、1学期のときに前田さんは、こんどは自分のバイクが欲しいと考える。しかし父は大反対した。

「バイクに乗せるために、おまえに教育費をかけたわけじゃない」
「どうしてもバイクに乗りたかったら、家から出ていけ」

そう言って、まったく前田さんを相手にしなかった。悶々とした日々がつづく。

高校1年生の夏休み。たまたま始めたビル掃除のアルバイトをそのまま住み込みに切り替え、その成り行きのままに高校を辞めてしまった。

「高校生活は1学期だけ。その後、いろんなバイトを経験しました。バブルの頃だったとはいえたかが高校生のバイト、たいしてお金は貯まりません。食べていくのがやっとです。

そんな中で原付免許を取り、カブでバイク便の仕事を始めました。そうしたら月の収入がいきなり40万円オーバー。このまま続ければ、中免取って大きいバイクに乗れるぞとほくそ笑みましたね(笑)。

でも実際にはNSR50に乗って深夜の埠頭に攻めに行ったり、仕事仲間とミニバイクのレースに出たり。小さいバイクにばかり乗っていました。バイクでスピードを競うことが楽しくて仕方ないのは、今も昔も変わらないですね」

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自分のショップをオープンするも……

バイク便やトラックドライバーなどで日々の糧を得ていたあるとき、不意に時間ができた瞬間があった。そのタイミングと相前後して前田さんは、友人や知人に頼まれてバイクに触ることがよくあったという。

手際のいい修理、メンテナンス。なにより人柄。自然に周囲から「バイク屋になったら?」と言われることが多くなった。彼らは口を揃えて「きちんと仕事にしてくれれば、オレらだってちゃんと整備料が払えるんだから」と独立を勧めてくれたという。

なにかバイクと関われる仕事に就ければ──と、うっすら考えていた前田さん。仲間たちの助言に「たしかにそうだな」と思い始めていた。

バイクショップをオープンさせるためには開業資金が必要だ。まとまったお金を貯めるために前田さんは、バイクの登録代行サービスをスタートする。人手の足りないバイクショップの強いニーズに支えられて、順調に仕事を増やしていった。平日は登録の仕事、週末は依頼されたバイク整備。自分の城を夢見て、目標へとつながるザイルを手繰り寄せていく。

「平成14年の11月、ついに埼玉県川口市にお店をオープンすることができました。当初は中型バイクのユーズド販売がメインでしたが、その中身を徐々に整備とカスタムビルドにシフト。とくにスズキ のバンディット250、400やGSF1200のお客さんが多く集まってくるようになっていましたね。バンディットもGSFもキャブの調子が悪くなりやすかったから、愛好家も困っていたんです。

でも……多忙だったこと自体はとてもありがたかったのですが、オーバーワークがたたって身体が不調をきたし、ついには倒れてしまいました。3年目のことです」

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「なんでもやる」を捨ててみた

それまでのガムシャラな働き方を改めなければいけない──前田さんは真剣にそのことを考えるようになった。そうして出した答えが、「なんでもやる、なんでもできるのではなく、ショップの敷居をすこし上げることも必要なのでは?」だった。

「そのことが結果的に良かったのか、自分の得意な仕事の割合がだんだんと増えていったんです。好きなことのパーセンテージを伸ばしていくと、その先にもっと拡がりが出てくる。薄利多売だけでは見えてこない景色があることを、そのとき知りました。やりたくないことはやらない、っていうのも(笑)」

そんな心の余裕が、プライベートの時間の使い方にも変化を与える。以前から興味があったドラッグレースにクルーとして参加するようになった。

「立ち上げから手伝っている『JD-STER』のシリーズにはいまでも参戦していますし、草レースの最高峰と言われる『テイスト・オブ・ツクバ』にもフルチューンしたGSF1200を持ち込んで走っています。どちらもライダーは自分。もっと言えば、どちらも趣味。

お客さんのサポートももちろんしますが、自分で走りたいという気持ちがまだまだ優っている。40歳という遅い年齢でレースを始めたせいかもしれませんね。もうすぐ50歳? ぜんぜん関係ないなあ(笑)」

前田さんはサラリと言うが、2018年にはテイスト・オブ・ツクバの中でも激戦区であるF-ZEROクラスでなんと初優勝を飾っている。筑波サーキットのベストタイムも、コンスタントに1分1秒を切っていることの凄み。趣味というにはあまりにハイレベルだ。

「まあ、翌2019年には大転倒で大ケガしましたけどね(笑)。優勝はたしかに目標だったけれど、ひとたび経験してしまうと欲もプレッシャーも、そして気負いも生まれてしまう。だからコケたのかもしれない。フォローだった風が急にアゲンストに変わったような気がしました。レース前の応援は『もう一度優勝ですね!』になったし、仮にふたたび優勝しても『また優勝したの?』くらいにしか思われないかもしれない。崇高な夢が、当たり前の日常に堕してしまう瞬間がある。
けっして偉そうに言っているわけじゃないし、斜に構えているわけでもないけれど、レースって難しいなあってつくづく思います」

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2021年はST1000にエントリー

前田さんのカラダは全身キズだらけだ。大きな転倒を何度も繰り返したにもかかわらずいま現在、普通に歩けているのが不思議なくらいの負傷キャリアの持ち主である。それでも前田さんにバイクに乗ることをやめる気配はない。次の目標はもてぎの地方選手権、トップカテゴリーのJSB1000に次ぐST1000という超高速レースだ。

思い立ったら迷わない前田さん。さっそく昨年秋にGSX-R1000を駆って初エントリーしてしまった。

「すぐにどうこうなるなんて、まったく思っていません。GSF1200で筑波のラップタイムを削るためのいい練習になるんじゃないかな、ってくらいの軽いキモチで出場したんです。

そもそもテイストやST1000とは関係なく、それよりももっと以前からレースに熱を上げるいちばんの理由に『レース会場の雰囲気が好き』っていうのがずっとあった。それが大切なんです。大ケガしたことでそのことを、よりいっそうはっきりと自覚することができましたね。これは大きかった。欲や迷いがなくなっていったのはケガのおかげ、と言ってもいいかもしれません」

今年2021年は、もてぎと筑波で開催されるST1000に年間エントリーしようと画策中だ。

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ゼロフィニッシュは初めてだった

ショップとサーキット。日常と非日常。前田さんは2つのフィールドをめまぐるしく往復する。そんなバイク中心の生活の中で足りないのはふたつ、時間と人手だ。とくに個人店はどこも似たような事情でしょうと目を細める。

「メカニックの本懐として実質的な作業では当然手を抜かないですが、それ以外ではなるべく手を省きたい。限りある時間の中でそれは、当然の成り行きだと思います。自分の場合、バイクの外装をキレイに維持するのは基本的にオーナーさんの役目だと思っているので、よほどのことがないかぎり丁寧な洗車やクリーンナップはしません。もちろん中古車は別ですよ(笑)。
それでも自分が汚してしまったり、整備中にホコリをかぶってしまったボディは現状まで戻さないといけません。レース会場でも出走前に、手早くボディをキレイにします。そんなときにクリーンナップ系のケミカル剤はとてもありがたいですよね。

そんな、いつもの流れでシュアラスター ゼロフィニッシュをはじめて使ってみました。『よくある艶出し剤の類でしょ』とそれほど期待もせずに作業してみたんですが……ビックリしました。通常であれば“ピカピカさせること”とは相容れない、対極の機能である“汚れ落とし”としてのパフォーマンスが、想像以上に高いんです」

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ゼロフィニッシュか、それ以外か

「最初にゼロフィニッシュを使ってみたのは、JD-STERというドラッグレースの会場でした。マシンのカウルの、ゼッケンを貼る部分に雑なはがし方のせいで接着剤が残ってしまっていたんです。
ちょっと面倒だな、ササっと済ませたいなと思ったので、ガソリンでテキトーに拭ってしまおうと作業に取りかかろうとしましたが……ここはドラッグレースの本戦会場。マシンは輝いている方が絶対にカッコいい。できれば艶出しまで欲張りたいと思ってゼロフィニッシュを持ち出してみたんです」

スタッフとしてせわしなく動き回る週末のドラッグレース会場では、平日のショップ同様、相変わらず前田さんに時間はない。そのうえ自分でもレースにエントリーするのだから、その多忙さたるや想像を絶するだろう。

「スプレーを噴いて、磨く。それだけ。たったそれだけのアクションで驚くほどキレイに接着剤が除去できたし、汚れムラもだいぶ消すことができた。しかもその上、フラットな艶がボディをコーティングしてくれる。ゼロフィニッシュはめちゃくちゃ“おいしいとこ取り”のケミカル剤だとニンマリしましたね。
艶出し剤でよくあるのは、タイヤワックスみたいにやたら脂分をのせギラギラさせて『ハイ終わり!』っていう、安直なタイプ。それらのケミカルとは一線を画した仕上がりには嬉しい誤算がありました。これはゼロフィニッシュを使ったことのあるユーザーさん、共通の体験ではないでしょうか」

周回レースでは付き物である、ボディ各部に付着したしつこいタイヤカスも落としやすい。パーツクリーナーと艶出し剤の2本を駆使して行っていたダブルの作業が、このゼロフィニッシュだったら1本にまとめられる。しかもデカール類への攻撃性も低い。一度この楽チンさと安心感を知ってしまったら他は使えなくなりますよね、と前田さんは話してくれた。

ひとりでこなすには多すぎるチューニング作業やルーティンのメンテナンス、車検、そして自他を問わない多くのレースマシン製作。カラダをこわさないか心配だが、それでも前田さんは見た目どおりパワフルに、見た目以上に緻密にこれからも前進するだろう。時間は足りないままだが、叶えたい夢の数は減らない。

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photo:高柳健, SHIGERU TOKUNAGA(Riding Cut) text:宮崎正行

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取材協力:Garage db

スズキの油冷大排気量マシンを中心に、旧年式ロードモデルの完調維持から最新のドラッグレーサー製作まで、幅広いメンテナンス〜チューニングを手がけるスペシャリティショップ。オーナーの前田憲明さんみずからテイスト・オブ・ツクバのF-ZEROクラスにGSF1200で毎戦出走し、2018年秋には初優勝を飾った。また「JD-STER」という国内唯一のドラッグレースのシリーズ戦には運営スタッフとしても参画する(2021年ははじめて関東での開催がメイン、Rd.1は茨城のJARIにて)。
東京都足立区江北2-3-30
TEL: 03-5647-9325
www.garagedb.com

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